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蝶は二度、蜘蛛の巣にかかる ~MTFの痴漢被害の実態~ 第二回(全三回)

蝶は二度、蜘蛛の巣にかかる ~MTFの痴漢被害の実態~ 第二回(全三回)

痴漢にあった私は警察に相談する決意をした。そして…(第一回より)

ガラガラとドアを開け、「どうしました?」と警察官の方に聞かれ、

『今、痴漢にあってしまって…どうすれば良いのか分からなくて…相談に来たんですけど…。』

私の精一杯の言葉でした。

「分かりました。ではまず、身分証明書をお出し下さい。」

そう言われ、まだ私は戸籍変更も名前変更もしていなかったので、提出するのが嫌だな…と思いながらも、でも、しっかり話を聞いて欲しかったし、対策などの話も聞きたかったので、保険証を提出しました。

その保険証を確認した警察官の方は戸惑った反応を見せました。その反応は生活のあらゆる場面で経験した反応だったので、私は恥ずかしながらも『昔は男性でしたが今は女性として生活をしています。まだ戸籍の変更は出来てないのですが…。』という話をして、警察官の方は頷き、理解した様子でした。

直後、警察官が放った一言を私は一生忘れられません。

「女性に思われて良かったじゃないですかぁ!」

微笑みながら当然の如く言ってきたのです。

『…え?』

私は頭が真っ白になりました。次に思ったのは、

『…この人じゃ…駄目だ…話が通じない。』

きっとこの人に何を話しても理解出来ないだろう…。一瞬で悟ってしまいました。それは、助けを求めて駆け込んだその先で、私には味方が居なかったのと同じ事でした。

私の戸籍が男性だったから…? 私はその当時、自分を責め、自分の戸籍を呪いました。でも、冷静になった今考えると、男性が男性から痴漢を受けても、それは痴漢ですよね? 戸籍の性別は関係ないはずです。

また、私は当時から今と変わらず実生活を女性として生きていたので、周囲からも女性と思われていて、女性として被害にあったのです。警察官のいう「女性に思われて良かった」は、普段の生活の中で当たり前のことであり特別な事ではないのです。

だって、私は女性なんです。

私は、その後少しだけ、痴漢の被害を受けた時の対応の仕方を聞いていましたが、もう何を話しても無駄だという事が分かり、同じ空間にいる事すらも苦痛に思ったので直ぐに帰りました。

その加害者からの被害は、それ以降ありませんでしたが、それと同じくらい…もしくはそれ以上に警察官の一言は私の心に一生治らない深い傷を残しました。

私は電車に乗る時は、極力、男性がいる列には並ばない、そばには行かない、身体を触れられないようにする。この様な事を無意識のレベルで気にしてしまいます。過剰ですか? いいえ、過剰ではありません。そうでもしないと安心して暮らせないのです。

それでも、これ以外に痴漢の被害には何度もあっています。何度もです。
私はそんな時、誰に助けを求めればいいのでしょうか?

第三回に続く

2017.08.04

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