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多様性を「知る」 vol.1

多様性を「知る」 vol.1

中途半端に知っていることが、知らないことより害になることがある。
「テレビで報じていたから」、「新聞やインターネットに書いてあったから」、挙句には、「●×さんが言っていたから」まで。「●×さんって誰?」と聞くと、近所のおばさんではないか。うちの母のことなんですけどね。

8年ほど前になるだろうか。今年、54年ぶりの国交回復で話題になったキューバを訪問した時のことである。出発前、音楽やバレエなど文化面の情報は、すんなり入ってきたが、アメリカと喧嘩している国ということだけで不気味なイメージは、どうしても拭い去れない。「知らない」ことに対し、マイナスの情報に反応し、それがステレオタイプの見方として固まると厄介なものである。次第に何が正しく、何が正しくないのかわからなくなってしまったのだ。結局、途中で調べること自体を止め、「知らない自分」の状態で出掛けることにした。厳密には「知らないふり」なんだろうけど。

カリブ海の潮風に包まれたハバナの街は、磨き上げられた1950年代のアメ車がいたるところで走っていて、今にも踊りだしそうな住民の笑顔であふれていた。映画館に立ち寄ると、「パイレーツ・オブ・カリビアン」、つまり、ハリウッド映画を上映している。バーでモヒートを飲みながら声をかけてきた現地の人と、片言の英語とスペイン語でやりとりする。どうもアメリカが好きな人が多いらしい。

夜な夜な老若男女が集まり、踊りまくる。カリスマ指導者の存在は大きいが、細かいことは気にしないで人生を楽しむラテン気質の国民性の光景が、いたるところに転がっている。自分がここで生まれた際の人生まで妄想させてくれた。

「知らない」ことで空白が埋まっていくことを「知る」旅となったのである。

今さら言うことでもないが、21世紀に入り、情報収集は格段に便利になった。自分が知りたい情報は、検索エンジンに打ち込めば膨大な答えを出してくれる。ただ、過度な情報に追われ、流し読みと思考の癖で、熟考しないまま、歪んで蓄積されていくことがある。全て追いかけて、全て知る必要などない。時には、「知らない」ことを流してしまうことも必要なんじゃないんだろうか…って誰か母に言ってくれないかなぁ。僕の言うことには耳を貸さないんですよね。それはそれで、また、「知る」の弊害なのに。

2020.07.01

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イシコ

イシコ

女性ファッション誌編集長、WEBマガジン編集長を歴任。その後、ホワイトマンプロジェクトの代表として、国内外問わず50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動を行い話題となる。一都市一週間、様々な場所に住んでみる旅プロジェクト「セカイサンポ」で世界一周した後、岐阜に移住し、現在、ヤギを飼いながら、様々なプロジェクトに従事している。著書に「世界一周ひとりメシ」、「世界一周ひとりメシin JAPAN」(供に幻冬舎文庫)。

セカイサンポ:www.sekaisanpo.jp