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MtFをカミングアウトしたら職を失った話 ~注目のYouTuber MtFじゅんじゅんの5年(1)~

MtFをカミングアウトしたら職を失った話 ~注目のYouTuber MtFじゅんじゅんの5年(1)~

(写真は、就職活動のときに撮影したリクルート証明写真)

今さら言うことでもないが、人生はどこで、どうなるかわからない。だからこそ投げやりになってはいけない。
注目のYouTuberじゅんじゅんの話を聞いているとつくづく思う。彼女はMtF(男性から女性に性別を移行する人、または、した人の総称)である。

「ほんの数か月前まで、某有名アパレル企業で店長を目指して働いていました。そして、ある時、自分がMtFであることをカミングアウトしたのですが、当時の店長と話をするなかで、会社は世界進出を公言していたので、世界では当たり前になりつつあるLGBTの雇用促進や、彼らに向けたメッセージの発信などで私が役に立てるんじゃないかと私なりに目標を持てたので、改めて仕事に取り組む意欲がわきました。」

しかし、そのカミングアウト後、今後の契約は更新されないことを告げられる。特に仕事で重大な過失を犯したわけでもない。しかも、告げられたのは契約更新の3日前。彼女は過呼吸になるほど泣き続けた。

「ようやく手に入れた再スタートだったんです。」
そうつぶやいた後、過去を語り始めた。

彼女は登校拒否を経験している。学校に行くことが嫌になったのは、すね毛が生え始めた中学一年生の頃だった。通っていた中学校は夏になると制服ではなく、半袖短パンの体操着で学校生活をおくらねばならず、当時、すね毛の処理をしていた彼女は、それを変に思われるのが嫌で学校に行くことに抵抗を覚えたのだ。中学二年生の時には、ほぼ学校に行くことがなくなり、午前中はテレビを見て、午後は倖田來未など好きなミュージシャンのPVを見ながら踊って過ごす生活を続ける。将来は漠然と歌手になりたいと思っていた。

いじめなどによる不登校ではないからだからだろうが、彼女の不登校時代の話には暗さが感じられない。彼女の言葉を借りれば「明るい不登校」である。中学三年生になっても登校拒否は続いたが、美術や体育など好きな授業がある日は登校するようになった。この彼女の行動に異論反論を持つ人もいるだろうが、僕は、今、登校拒否で悩む人や家族に提案したい。これも一つの選択肢、一つの生き方なのだと。現在の日本の教育現場に対しても参考になる例だと思う。

彼女は15歳で歌手を目指して上京し、ある高校の音楽科に入学した。午前中、一般教養の授業を受け、午後からは音楽の授業というカリキュラムだった。しかし、音楽科は全体的に授業が少なく彼女には物足りなかった。そこで半年後、音楽だけではなく、演技もダンスも習うことができる芸能科に移籍した。

「芸能科はきつかったですよ。授業で6時間踊りっぱなしのときもあるんです。でも、メチャクチャ楽しかった。音楽やダンスの基礎はもちろんですが、根性とでもいうんですかね・・・今の自分を支える基礎は、その時、できたと思います。」

卒業後、ダンスの専門学校を経て、20歳の時に劇団四季の研究所に合格する。更なる高みを目指し、日々、歌やダンス、演技のレッスンの稽古に励む。劇団四季は研究生も通常公演に出演することがあり、彼女は「コーラスライン」や「ジーザスクライストスーパースター」などに出演して舞台の経験も積んでいった。

そして、次に出演する作品が「ライオンキング」に決まった時のことである。ライオンキングの男性キャストは、上半身が裸だったり、身体のラインがはっきりわかるタイツをはかなくてはならない。念のため整理しておくと、この時、彼女は男性として劇団四季の研究生に入所していたのである。

「感覚的に“無理!”って思ったんですよね。この違和感って何だろう?って。今思えば、それが、性別違和だったんですけどね。」

彼女は研究所を辞めた。しかし、生活していかなければならず、働く場所を探した。そして、レストランでのアルバイトをした際に、明確に自分が性別違和であることを自覚することになった。というのも、今までの学校や劇団では校風や職業柄のおかげなのか、周りから女性っぽさを奇異に見られたりすることは少なかったが、飲食店で男性と同じ扱いをされることによって徐々に違和感が増幅していった。

そして彼女は女性として生きることを決意した。

その後、いくつかのアルバイトを経て、貯金もできたところで性別適合手術を受けるためにタイに渡り、8カ月の療養機関を経て、戸籍を変え、女性としての生活が始まった。就職活動を行い、いくつか受かった企業の中から某有名アパレル企業を選んで働き始める。そして最初の話に戻る。軌道に乗り始めたところで突然職を失う。

「しばらく、どん底でした。」

それでも実家に戻る気はなかった。次の働き口を求め、古くからの知り合いに連絡をとってYouTuberの仕事を紹介されたのである。

「MtFとしてYouTubeで発信してみない?と誘われたんです。劇団四季などのようにエンターテイメントの中で出演するのとは違い、公にカミングアウトすることに迷いがあり悩みました。でも最終的に私だからこそ発信できることがあると思って、やることを決心しました。」

彼女はYouTuberとしてデビューした。最初の頃は数十回の視聴しかなかった。それでも、カメラ、映像編集、テロップをつける作業など一人でアップするための技術を独学で学びながら、日々、動画をアップし続けた。こうして確実に彼女のファンは増え始め、デビューして数か月しか経っていないが、現在、LGBT関連の話や恋愛相談などに答える動画は総再生回数は10万回を超えるようになっている。

「まだまだYouTuberとして生活が成り立っているとまでは言えないんですけどね・・・ここが今の私の生きる場所なんだから、精一杯やりますよ。」

希望と覚悟が入り交じった笑顔だった。

第二回に続く

2017.10.23

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いろいろな職種と人種と性別で構成されるglassgempopcornのメンバー。