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性同一性障害は「障害」なのか?

性同一性障害は「障害」なのか?

教育委員に任命されているだけで、「あの先生を辞めさせろよ」、「最近の子供は挨拶ができてねぇよ」など様々な話が持ち込まれる。

そんな中、知人友人から「発達障害」について相談を受けることもある。といっても僕は精神科医でも心理学者でもないので何もできない。それでも相談してくる人は僕に答えを期待しているわけではなく、不安を吐き出す相手として選んでいるだけのようだ。そこで僕も開き直って聞くことだけに徹している。これが年々、多くなっている気がするのだ。

今では、よく耳にする発達障害という病名だが、どうも違和感を覚える。それは僕だけではないようで「発達マイノリティ」という言葉を使用する精神科医もいらっしゃる。もちろん、「障害」と名付けることで手厚く保護されることもあるので悪いことばかりではないが、「障害」という言葉は、それだけ重みを持ってしまうのだ。

LGBTの取材を始めてから同じようなことを感じていることがある。「性同一性障害」という言葉に、どうも違和感を覚えるのだ。これまた僕だけではないようで「LGBTをよみとく」(ちくま新書)の中で、著者の森山至貴さんは「性自認に適合するように身体を改変したいと望むことを「障害」と判断することはセクシャルマイノリティの歴史からすると後退と考えている」と述べている。

性同一性障害としてしまうと「治すべき負の価値を抱えた性のあり方」になり、つまりは「負の性のあり方を生きる者」となってしまうのだ。そこで森山さんは性同一性障害ではなく、性別違和という言葉を使用する。そうすることで性自認と身体の不一致そのものは障害ではないことをはっきりさせることになるからだ。性自認と身体の不一致が患者に与える臨床的に重要な苦痛が治療の対象であって、患者の性の在り方そのものを治療の対象としていないことが明示されていることになる……と、言葉は難しくないが表現が専門的でわかりにくいので、森山さんは例を挙げてくださっている。

全ての人間が夜中12時に寝て、朝6時に起きるべきとされる社会では、8時間寝ないと健康が保てない人、夜は眠れず昼間眠りたい人などは、社会の逸脱者となる。この時必要なのは、それぞれの人々を治療することではなく、それぞれの人の就寝のスタイルを可能にするように、いわばそれぞれの人々が望むスタイルで寝る暮らしを成り立たせることができるよう社会のしくみを変えることである。そういった多様な就寝スタイルが認められても、なお生存を支えることができない人が出てくる。そういった人を睡眠障害の患者として治療することは医療の側面から支えることになる。

この説明の「就寝のスタイル」を「多様な性の在り方」に、「うまく眠れない」を「性自認と身体の不一致」に置き換えれば、性別違和に関する治療が多様な性の在り方そのものの病理化でないことが理解できる。そろそろ「障害」という言葉について再考してもいいのではなかろうか。多様性を阻害する言葉だと思うんだよなぁ。

 
「LGBTを読み解く ―クィア・スタディーズ入門―」 (ちくま新書) 森山至貴

2017.08.21

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イシコ

イシコ

女性ファッション誌編集長、WEBマガジン編集長を歴任。その後、ホワイトマンプロジェクトの代表として、国内外問わず50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動を行い話題となる。一都市一週間、様々な場所に住んでみる旅プロジェクト「セカイサンポ」で世界一周した後、岐阜に移住し、現在、ヤギを飼いながら、様々なプロジェクトに従事している。著書に「世界一周ひとりメシ」、「世界一周ひとりメシin JAPAN」(供に幻冬舎文庫)。

セカイサンポ:www.sekaisanpo.jp