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映画「キャロル」の原作者パトリシア・ハイスミスが本名で作品を発表できなかった理由

映画「キャロル」の原作者パトリシア・ハイスミスが本名で作品を発表できなかった理由

ウディ・アレンの映画「ブルージャスミン」のケイト・ブランシェットが素晴らしく(この映画で彼女はアカデミー主演女優賞を受賞した)、彼女が出演している映画をDVDで続けて観ることにした。

映画「キャロル」(2015)と映画「リプリー」(1999)。
偶然にもレズビアンとゲイが映画の要素として色濃く反映されている作品である。この二作の原作者はパトリシア・ハイスミス。

彼女がレズビアンだったことは、亡くなるまで本人の口から語られることはなかった。しかし、周囲は知っていたのである。つまり公然の秘密だった。そこには秘密にしなくてはいけない時代背景があったのだ。

「キャロル」が発表された1952年は、アメリカでは第二次世界大戦後のソ連と冷戦中で反共産主義に基づく社会運動(マッカーシズム)の真っただ中だった。アメリカ政府は国内の共産党員を公職の代表職から追放するなど通称「赤狩り」を行っていた。

それはリベラル狩りでもあり、同性愛者たちにも矛先は向けられた。キャロルの舞台になったニューヨークでは覆面捜査官によるおとり捜査で同性愛者が逮捕されるということが日常的だった。1923年の州法改正(自然に反する罪やそのほかのわいせつ行為に関わる目的でほかの男性を誘惑するために男性が公共の場に頻繁に出入りし、徘徊する行為はすべて風紀紊乱罪として処罰できるようにした)から1966年に当時のニューヨーク市長がおとり捜査をやめさせるまで、約5万人の同性愛者が逮捕された。

そんな状況の中で、パトリシア・ハイスミスは、この作品を世に出したのである。これは彼女の実体験に基づいて描かれたと言われている。彼女は作家としてデビューした後、経済的な理由からクリスマスシーズンにおもちゃ売り場で接客の仕事をしていた時期がある。その時に出会ったのが、ケイト・ブランシェット演じる、かなり年上の女性キャロルだった。そして恋に落ちる。

パトリシア・ハイスミスは、この物語をクレア・モーガン名義で出版した。彼女がというより、彼女の代理人や編集者の意図によるものだったのかもしれない。これが同性愛者の間で人気を呼び、100万部を超えるベストセラーになったわけである。ヘテロ(異性愛者)の僕が観ても美しい物語だった。

その後、ヒッチコックの映画化で知られる「見知らぬ乗客」、そして、「リプリー」(アランドロン主演で知られる最初の映画化の邦題は「太陽がいっぱい」)とヒット作が続き、彼女の地位はゆるぎないものになった。

ちなみに「キャロル」に関しては、日本では翻訳もされていなかった。まぁ、2015年の映画化でようやく日本でも小説が翻訳されたけどね。

「キャロル」(2015年 アメリカ)
監督:トッド・ヘインズ
出演:ケイト・ブランシェット、ルーニー・マーラー他

「リプリー」(1999年 アメリカ)
監督:アンソニー・ミンゲラ
出演:マット・デイモン、グィネス・パルトロー、ジュード・ロー他

2017.08.18

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イシコ

イシコ

女性ファッション誌編集長、WEBマガジン編集長を歴任。その後、ホワイトマンプロジェクトの代表として、国内外問わず50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動を行い話題となる。一都市一週間、様々な場所に住んでみる旅プロジェクト「セカイサンポ」で世界一周した後、岐阜に移住し、現在、ヤギを飼いながら、様々なプロジェクトに従事している。著書に「世界一周ひとりメシ」、「世界一周ひとりメシin JAPAN」(供に幻冬舎文庫)。

セカイサンポ:www.sekaisanpo.jp