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一つの判断材料だけで全てを決めつけていませんか?

一つの判断材料だけで全てを決めつけていませんか?

「旅」の講演で世界の交通事情の話をしている時のことである。リトアニアのトラムバスやアルゼンチンの地下鉄、タイの水上バス、ミャンマーのトラックバスなど様々な国の乗り物を紹介していき、キューバでよく見かけるピカピカに磨かれた1950年代のアメ車のオープンカーの写真を写した。

「環境に悪い車だ~」

確かに古いアメ車は燃費が悪い。ガソリン1リットルで3キロ程度しか走らない。しかし、持ち主のキューバ人は普段、自転車で移動する。この車に乗るのは子供の誕生日で外食に出かける時か家族で海に行くなど特別な日だけで年間100キロ程度しか走らない。だとすると多く見積もっても年間34リットルのガソリンしか使わない。それでも環境に悪いだろうか。その講演は旅から環境の話へ変わってしまった。今の世の中は結論や判断を早く求められる。それがいいこともあるが、様々な視点から熟考することが欠け、一つの判断材料だけで全てを決めつけてしまうことも多い。

「A先輩カッコいいよね?見ているとドキドキする」

ある女性は学生時代、そうつぶやいただけで「あの子はレズビアンだよ」と決めつけられたことがあるそうだ。

彼女は、その後、男性と交際を始めると今度は周囲から「あの子はバイセクシャルだよ」と言われ、学生時代についたイメージを払しょくすることが大変だったと嘆いていた。一つの言葉が、その人の全てを物語るという考え方もあるが、その人が過ごしてきた時間、その時の状態や環境などで、同じ人でも違った行動、発言することは自然なことで、一つの行動と言動だけでは判断できないことの方が多い。

「月の瞳」というカナダ映画がある。

大学で神学論を教える女性教師カミールは同じ大学の男性教師マーティンと交際中、コインランドリーで出会ったサーカス劇団の女性ペトラと出会う。様々な出来事を経て、最終的にカミールはペトラと結ばれ、劇団の旅巡業についていく。LGBT映画というくくりで見ると、カミールはバイセクシャルになった(だった)と感じる人もいれば、元々、レズビアンだったのが開花しただけと思う人もいる。しかし、キリスト教の神学を専攻し、保守的な環境の中で(大学内の会議で同性愛を否定するシーンがある)人生を歩んできたところで自由奔放な旅芸人に惹かれただけで、男性、女性といった性別とは関係ないという考え方だってある。

映画「キッズ・オールライト」では、ジュールズとニックの女性カップルが同性結婚し、精子バンク制度を利用して子供を二人産み育てている家族の話だ。長年の生活にひずみが出始め、二人の間は、どこかギクシャクしていた。そんな時、彼女の子供たちが精子提供者を調べ、会いに行ったことがきっかけで、ジュールも男性のポールと出会い、浮気してしまう。ジュールズは「バイセクシャル」と感じる人もいるだろうが、単なる気の迷いで男性と寝てしまったというだけと思う人もいる。視点も解釈もいろいろでいい。

あえて曖昧のままだっていいとも思う。最近、白黒つけたがる風潮が息苦しくて仕方がないんだよね。

2017.07.20

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イシコ

イシコ

女性ファッション誌編集長、WEBマガジン編集長を歴任。その後、ホワイトマンプロジェクトの代表として、国内外問わず50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動を行い話題となる。一都市一週間、様々な場所に住んでみる旅プロジェクト「セカイサンポ」で世界一周した後、岐阜に移住し、現在、ヤギを飼いながら、様々なプロジェクトに従事している。著書に「世界一周ひとりメシ」、「世界一周ひとりメシin JAPAN」(供に幻冬舎文庫)。

セカイサンポ:www.sekaisanpo.jp