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ホモソーシャルとゲイの境界線

ホモソーシャルとゲイの境界線

発表された当時、発禁処分になった森鴎外の小説「ヰタ・セクスアリス」に、「硬派」は「男色」を好む者、「軟派」は「女色」を好む者と書かれている。

先日、映画「SCOOP!」を観た二十代の若者と話す機会があり、その際、僕が「硬派」という単語を使ったら通じなかった。既に「硬派」の単語は死語に近いのかもしれない。ちなみに僕の学生の頃は、森鴎外の「硬派」とは使い方が違う。男らしさを強調する態度を表す言葉として「硬派」を使用し、逆に女性と交際している人たちを妬みもこめて「軟派」と呼んで蔑んでいた。

「「硬派」が邪魔して高校時代3年間、女の子とつきあえなかったことが人生における後悔の一つだよ」

数十年ぶりに高校の同窓会に出席した際、友人がぼやいていた。中学や高校になると異性を意識し始め、その反動で異性と距離を置くようになり、そのうち同性同士で遊んでいた方が楽しくなり、結びつきも強くなっていく。その環境にいると女性と交際することは裏切行為とまで言われていた。ちなみに僕は「硬派」のグループに所属していたが、2年生の時に女性と交際することになり、以来、「軟派野郎」と呼ばれていたらしい。

僕たちが学生時代に使用していた「硬派」は同性間の結びつきや関係性を意味する社会学の用語「ホモソーシャル」に近い。友情や師弟関係の延長上のもので体育会系の関係性がイメージしやすいかもしれない。

映画「SCOOP!」の話に戻す。二十代の若者と福山雅治演じるパパラッチ「静」とリリー・フランキー演じるヤク中の「チャラ源」の関係性が話題になった。親友である二人とも女性が大好きで、「おっぱいパブ」のような風俗でベンチシートに隣同士になり、自分の膝の上に裸の女性をのせて胸を揉みながら、「静」と「チャラ源」は、互いに顔を寄せ合い、ふざけてキスをする。「あれって二人はバイってことっすか?」と若者が過剰反応したのである。最初、冗談かと思ったが、どうやらそうでもないらしい。フィクションの世界の話なので、二人の関係性は、あくまで想像でしかないので若者が言ったようにバイセクシャルなのかもしれないが可能性は薄い。

僕が「違うと思うけどね」と否定すると、

「でも、 チャラ源が静に「久しぶりに六本木でデートしようよ」と言ってたじゃないっすか?」
と納得していない。

ホモソーシャルという関係性がピンとこないようなのだ。さらに話を聞いていると彼は男同士で肩を組んで飲み屋を梯子した経験はなく、そういった関係性に違和感を覚えるとまで言っていた。多様性を受け入れる人間関係に対する理解うんぬんの前に人間同士の距離感が変わってきているのかもしれないなぁと、しみじみ考えてしまったのである。

「SCOOP!」
2016年 日本
監督:大根仁 
出演:福山雅治、二階堂ふみ、吉田羊、滝藤賢一、リリー・フランキー他

2016.11.07

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イシコ

イシコ

女性ファッション誌編集長、WEBマガジン編集長を歴任。その後、ホワイトマンプロジェクトの代表として、国内外問わず50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動を行い話題となる。一都市一週間、様々な場所に住んでみる旅プロジェクト「セカイサンポ」で世界一周した後、岐阜に移住し、現在、ヤギを飼いながら、様々なプロジェクトに従事している。著書に「世界一周ひとりメシ」、「世界一周ひとりメシin JAPAN」(供に幻冬舎文庫)。

セカイサンポ:www.sekaisanpo.jp