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電車の中で女装の男性を見つけたおばさま達の反応

電車の中で女装の男性を見つけたおばさま達の反応

「あら、あの人、女装よ」

昼下がりの割と空いている電車の中で隣に座っていたおばさま二人組の小声が僕にまで聞こえた。おばさまというのは小声でも大きいのはなぜなんでしょうね。

彼女たちは、女装していた男性が降りていく様子を露骨に目で追いながら、「どうして、あぁなっちゃうのかしら?」と始まり、自分の子供がそうなったらという話になった。「考えられないわ」、「実は多いらしいわよ」と言いつつ、自由奔放な会話が繰り広げられていた。

「今は21世紀です。チケットをお持ちの方なら、我々の電車には誰もが大歓迎ですよ」

自分の前に座っている男性がスカートとストッキングをはいていると、イギリスの鉄道会社にツイッターで文句を言った人に対する会社側の答えが話題になったことを思い出した。

女装と一言で言っても、いろいろあり、性的思考としての女装もあれば、単なる変身願望の延長で女装する男性ということもある。実は変身願望の延長の女装は増えているそうだ。だから、女装バーだけではなく、女装グッズを収納しておく専用コインロッカーを設置しているマンションもあるのだろう。

「コスプレと一緒だよ」

女装してビジュアルバンドをやっていたバンドマンが、そう言っていたことがある。被服心理学の観点からすれば、コスプレする心理と共通していて特別な性癖ではないと主張する研究者もいる。女装にしろ、男装にしろ、異性の服を着る変身願望には男性や女性という役割からの解放という役割もあるらしい。もちろん、そこから自分の新たな性癖へと移行していく人もいるだろうが。

10年程前、原宿でワンピースを着て赤いランドセルを背負ったおじさまをよく見かけた。女装もさることながらランドセルというアイコンが強烈で周囲の日本人から奇異の目で見られていたが、小学生が背負うものという感覚がない外国人にとってはお洒落に見えたのだろう。やたら写真を撮られていた覚えがある。フランスのお洒落なパリジェンヌの中でランドセルが流行している話を聞く度に、彼のことを思い出す。実は、あのおじさまは日本文化の発信に一役買っていたのではなかろうか。日本で偏見の目にさらされていた装いが、世界に放たれ、熱狂的な支持を得るというのは、「KAWAII」をはじめ、珍しいことではない。

相変わらず、おばさま二人組は会話を続けていた。

「歌舞伎役者みたいだったらいいわよね。さっきの子ももう少し髭を剃っていればいいのよ」

「朝に剃ってそのまんまなんじゃないの?」

「そんなにすぐ濃くなっちゃうものなのかしら」

聞いているうちに笑いがこみ上げてきた。決して、おばちゃんたちは女装に対し、嫌悪感を持っていたわけではなかったのだ。逆に僕がおばちゃんに対して偏見を持っていました。

2016.08.25

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イシコ

イシコ

女性ファッション誌編集長、WEBマガジン編集長を歴任。その後、ホワイトマンプロジェクトの代表として、国内外問わず50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動を行い話題となる。一都市一週間、様々な場所に住んでみる旅プロジェクト「セカイサンポ」で世界一周した後、岐阜に移住し、現在、ヤギを飼いながら、様々なプロジェクトに従事している。著書に「世界一周ひとりメシ」、「世界一周ひとりメシin JAPAN」(供に幻冬舎文庫)。

セカイサンポ:www.sekaisanpo.jp