ノンケでウリ専になろうとしている君へ
最近、お金のためにノンケ(異性愛者)が、ウリ専(男性が男性に身体を売ること)になる人が増えているという話を聞いた。
同性愛者向けの風俗店では、ノンケ食いと呼ばれる分野があり、それは日常では難しいので、風俗店のノンケは願望を叶えることができるので人気があるというわけだ。ノンケを演じる同性愛者もいるとは思うが、金銭的に困って、手っ取り早く現金を手に入れたいと気軽に足を踏み入れる人もいるらしい。他人の人生のことなので、とやかく言うつもりもないのだけれど、その話を聞いて、ふと思い出したことがある。
僕が静岡で過ごした大学時代のこと。友人が高給のアルバイトを紹介してくれと頼みに来たことがあった。当時はインターネットもない時代である。求人雑誌に掲載されているのは、女性なら時給2000円という仕事もあったが、男性では水商売でも1000円を超える仕事は少なかった。もちろん静岡という土地柄もあったのかもしれない。その時、僕は多種多様なアルバイトをしていたので、様々なアルバイト情報を持っていた。友人もきっと、それを知って頼みに来たのだろう。時給とすれば家庭教師が一番効率はいいが、すぐに紹介できる案件もない。
「何かないの?」
彼はかなり焦っていた。よほど、お金が必要だったのだろう。
「ないことはないけど……」
僕は戸惑いながらも、ちょうど、その時、静岡で撮影がある時に素人モデルを手配して欲しいと頼んでくる東京在住の方からいただいた話を切り出した。ホテルは用意するから東京見学しがてら夜の短期のアルバイトができる人いないかと言うのだ。詳しい金額を忘れてしまったが、夕方から夜中までで1日3~4万円くらいだったと思う。
「やる!やる!水商売でしょ?俺、できると思う」
彼があまりにも前のめりなので、改めて仕事内容をわかる範囲で説明した。
東京の池袋のマンションにある会員制のバー、いや、バーというよりは風俗店と言った方がいいと思う。店の入り口で、裸でパンツ一枚、カフスボタンと蝶ネクタイだけつけて立っている。お客さんは、弁護士や医者など高額所得者のゲイの男性で、気に入った子がいると奥の部屋に連れていかれるのだそうだ。最低、ディープキス、身体まで許せば、ギャラとは別にチップももらえるはずだと言っていた。つまりは身体を売るということなのだ。
僕の話を聞いていた彼は青冷めながら考えこんでいた。僕も話だけして無責任だけど、よく考えた方がいいと言った。
「一晩で楽に稼げるようになると金銭感覚がずれていく傾向にあるからね。一度、ずれてしまうとなかなか戻せないから。金銭面での危機を抜け出し、普通の生活に戻っても、結局、また戻る人が多いんだよ。相当な覚悟が必要だからね」
話を持ってきてくれた人も忠告していた。だったら、そんな話を持ってこないでほしいとも思ったが、それを覚悟してでもやりたい人がいたら紹介してほしいということなのだろう。
結局、彼は、その仕事をしなかった。彼は自力で何とかその苦難を乗り切った。めでたし、めでたし……で、終わればよかったのだが、彼は、その話を面白おかしく、様々な人にするものだから、いつのまにか僕がそのアルバイトをしているという噂が流れ、大変な目にあった。やれやれ。話をすること自体も覚悟が必要なのだ。
とにかく、ノンケが身体を売るという話で、ふと、気になったので、おじさんとして警告しておきたくなり、キーボードを叩いたわけである。

イシコ
女性ファッション誌編集長、WEBマガジン編集長を歴任。その後、ホワイトマンプロジェクトの代表として、国内外問わず50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動を行い話題となる。一都市一週間、様々な場所に住んでみる旅プロジェクト「セカイサンポ」で世界一周した後、岐阜に移住し、現在、ヤギを飼いながら、様々なプロジェクトに従事している。著書に「世界一周ひとりメシ」、「世界一周ひとりメシin JAPAN」(供に幻冬舎文庫)。
セカイサンポ:www.sekaisanpo.jp