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俳優やミュージシャンのLGBTがカミングアウトしない理由 映画「ロングタイム・コンパニオン」より

俳優やミュージシャンのLGBTがカミングアウトしない理由 映画「ロングタイム・コンパニオン」より

俳優やミュージシャンと飲んでいて、「カミングアウト」の話になった。

「俳優という職業に就いている限りは、死ぬまで世間にはカミングアウトしないだろうね」

という発言は意外だった。セクシャルマイノリティの俳優やミュージシャンでカミングアウトする人は、ほとんどいないとまで言った。

「いやいや、そんなことないでしょ?だって、あの方は?」

そう言って僕がゲイと認識している日本人の俳優やミュージシャンの名前を次々に挙げていった。

「あくまで噂だけで、本人からカミングアウトはしていないよ。海外の俳優さんならいるけどね」

一人ずつ検証していくと確かにそうだった。

映画「ロングタイム・コンパニオン」の中にハワードなるゲイの俳優が登場する。映画は1981年ニューヨークタイムズに「同性愛者から原因不明の癌を発見」という記事が出たことから、主人公のゲイであるウィリーや彼らの友人たちの間に不安が広がる。何人かはエイズで亡くなっていき、そこから約10年間にわたるウィリーの周囲のゲイコミュニティの移り変わりが描かれている。

そのゲイコミュニティの中にいるハワードが、こう言うシーンがある。

「ゲイをカミングアウトすると役が来ないから」

彼はそれ以上の説明はしなかった。世の中がニューヨークタイムズのエイズの記事に怯えている真っ只中なので撮影現場に混乱をきたさないために使ってもらえないという意味合いの方が強い。しかし、この台詞は、現代でも言えることなのだ。

世の中にカミングアウトした俳優がいたとしよう。恋愛映画や恋愛ドラマに出演し、女性とのラブシーンがあった場合、俳優が「ゲイ」であることの情報を持っていると、すんなり感情移入できない観客が出てきてしまう。それはミュージシャンも同じ。正確には歌詞を書いて歌うシンガソングライターといった方がいい。ラブソングを歌っても同じように、「ゲイ」であることがどうしても抜けきれない状態で聴いてしまう。僕も「そんなことはない」と言い切れる自信はない。

これは根本の部分が変わっていかないと難しい。物心ついてから、道徳観で身に付けたLGBTでは、口には出さなくても頭の片隅に残ってしまい、それが鑑賞を妨げる可能性があるのだ。物心つく前から世の中の多様性を馴染ませておかないとクリアできない問題なのかもしれない。しかし、実は、それができればLGBTの俳優を自然なこととして見ることができるだろう。セクシャルマイノリティの俳優やミュージシャンが普通にカミングアウトできる日は、くるのだろうか。

「ロングタイム・コンパニオン」
1990年/アメリカ/96分
監督:ノーマン・ルネ
出演:キャンベル・スコット、ブルース・デイヴィソン他

2016.05.01

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イシコ

イシコ

女性ファッション誌編集長、WEBマガジン編集長を歴任。その後、ホワイトマンプロジェクトの代表として、国内外問わず50名近いメンバーが顔を白塗りにすることでさまざまなボーダーを取り払い、ショーや写真を使った表現活動を行い話題となる。一都市一週間、様々な場所に住んでみる旅プロジェクト「セカイサンポ」で世界一周した後、岐阜に移住し、現在、ヤギを飼いながら、様々なプロジェクトに従事している。著書に「世界一周ひとりメシ」、「世界一周ひとりメシin JAPAN」(供に幻冬舎文庫)。

セカイサンポ:www.sekaisanpo.jp